しゃべり場

「薬」になるアルコール

ディリフです。皆さん、60度のお酒を味わったことがありますか?ちなみに、怪我をした時の消毒効果が最も高いアルコール度数は70度から78度と言われています。コロナ時代には、アルコールがあちこちで見られましたが、その度数も70度から78度の間でした。それでは、60度のアルコールはお酒と言えるのでしょうか?
 
私は中国内モンゴル自治区で生まれ育ちました。小さい頃から中国の酒文化の影響で、60度のお酒を当たり前のものとして認識していました。お酒に弱い人でも、60度のお酒を一度試してみると、その味と匂いを一生忘れないでしょうね。
 
おじいちゃんとおばあちゃんの時代には、お酒は聖なるもので、普段はあまり飲めるものではありませんでした。正月や祭り、お祝いの場でしかお酒は見られませんでした。また、正月に年配者の家を訪ねる時には、必ずお酒を2本持っていく習慣がありました。
 
今回のモンゴル国調査では、内モンゴルの習慣に従って「草原白」というお酒を持って行くことにしました。内モンゴルから「草原白」を一箱、20本注文しました。最初は研究対象者一人に2本ずつ渡す計画でしたが、モンゴル国にはそのような習慣がないので1人1本でいいとモンゴルの友達に教えてもらいました。また、内モンゴルの「草原白」はモンゴル国ではお酒ではなく、「薬」として扱われていると言われました。
 
内モンゴルで一番普通のお酒が、なぜモンゴル国に来ると「薬」になってしまうのかという疑問が湧きました。モンゴル国に着いた後、モンゴルの友人たちは「草原白」をよく知っていました。普通の売店にもあるのではないかと思っていましたが、一般の売店には置かれておらず、探さないと見つからないものでした。
 
そして、研究対象者に渡す時も、彼らは「草原白」をよく知っていました。見た瞬間に「あの緑瓶のお酒ですね。タライン・ハラですね」と喜んでいました。瓶には「草原白酒」という漢字が書かれており、同時に縦書きのモンゴル文字も書かれています。「タライン・ハラ」とは「草原の黒い酒」という意味のモンゴル語です。「ハラ」は「黒」と直訳できますが、それには「純粋」や「透明」といった意味も含まれます。例えば、「ハラ・オス」という時にそれは文字通りに「黒い水」になりますが、しかしモンゴル語話者にとってそれは「透明な水」を意味する表現になります。ですので、「タライン・ハラ」という表現の正しい意味は、「草原の黒い酒」ではなく、「草原の純粋なお酒」とか「草原の透き通ったお酒」になるでしょう。
 
そこで、なぜ外国のお酒のことをそんなに知っているのかと聞くと、「それはお酒ではなく、こちらでは『薬』として扱われているからです。一口飲むと、内臓まで消毒してくれるから」と笑っていました。その中のおばあちゃんは、「タライン・ハラ」の空瓶さえも仏壇の傍に置いて、大事にしていました。
 
同じものでも、異なる場所によって異なる認識になるのは面白いですね。ちなみに、モンゴル国では「タライン・ハラ」の値段は内モンゴルで売っている値段の5倍以上でしたが、皆「タライン・ハラ」のことを知っていました。驚きました。

タラリン・ハラ_ディリフ.jpg