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第2回研究会「牧畜社会におけるエスニシティとエコロジーの相関」

■趣旨
民族紛争や部族対立などのようなマイナス表現で語られがちな中央アジア・西南アジア・コーカサス・中東、そして東アフリカは、豊かな地下資源に恵まれているだけではなく、中国・インド・ロシア・トルコといった地域大国やアフリカ諸国との新しい関係構築を目指す日本にとってもきわめて重要な地域となる。本研究会では、これらの地域に暮らす民の伝統的な生業形態が牧畜であるという点に着目し、牧畜民である彼らのもつ集団観の特徴を分析しながら、その集団観が彼らと国民国家との折衝過程においてどのように変化し、その変化が地域全体にいかなるインパクトを与えているかを、地域研究、歴史学、人類学的な視点から解明していく。
 
■日時:9月25日13:30~18:30
 
■会場:小会議室(文法棟2階 H235号)
 
■プログラム
(1) 13:30~14:00 趣旨説明:シンジルト
 
(2) 14:00~14:50 研究発表1
・発表者:井上岳彦(日本学術振興会)
・発表題目:遊牧から定牧へ、そして漁撈:強制移住(1943年)までのカルムィク社会の変容
・報告概要:本報告は、17世紀から20世紀前半までにカルムィク牧畜社会の変容について論じる。追って申請される科研費で、報告者は20世紀後半の「南ロシア・コーカサスの牧畜に関する社会史的研究」を担当することになるが、後期ソ連社会における牧畜を論じる前提として、ロシア帝国・前期ソ連におけるカルムィク社会の社会・経済的変容について十分理解しておく必要があるだろう。牧畜経済の基盤となる牧地そのものの減少と移動の制限、脆弱化する生活基盤を補完する漁撈の重要性の高まり、貨幣経済と定住生活の浸透はロシア帝国期にすでに起こった。こうした緩やかだが大きな社会的変容にましてより重大なインパクトをもったのが、ソ連において行われた牧畜の集団化である。本報告では、1943年の強制移住までに起こったこれらの社会・経済的変容が牧畜に与えた影響について、考察する。
 
(3)15:00~15:50研究発表2
・発表者:上村明(東京外語大)
・発表題目:民族的エポケーと牧畜の実践:モンゴル国におけるカザフ人とモンゴル人の敵対と協力関係
・報告概要:モンゴル国のカザフ人とモンゴル人の間には、明確な民族境界が存在し、その人的透過性もきわめてひくい。しかしながら、西部の牧畜地域では、生業における利益の対立を超えて協力する例もよく見られる。そこには、民族的差異をみとめながら、それを評価にむすびつけない抑制=判断停止が働いていると考えられる。本研究は、これを民族的エポケーと名づけ、現実の場面において、それがどのレベルで発動するか、その要件と要件間の相互作用について、牧畜との関係を中心に明らかにしようとする。
 
(4)総合討論
16:00~18:30
 
■発表者紹介
・井上岳彦(東北大学、歴史学、ロシア仏教地域研究)
・上村明(東京外国語大学、地域研究、文化人類学)
 
■お問い合わせ
 シンジルト
 熊本大学・文学部・文化人類学
 shinjilt@kumamoto-u.ac.jp(2470)
 
■助成
本研究会は平成28年度熊本大学文学部学術研究推進経費を受けています。
 
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