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第3回研究会「牧畜社会におけるエスニシティとエコロジーの相関」

■趣旨
民族紛争や部族対立などのようなマイナス表現で語られがちな中央アジア・西南アジア・コーカサス・中東、そして東アフリカは、豊かな地下資源に恵まれているだけではなく、中国・インド・ロシア・トルコといった地域大国やアフリカ諸国との新しい関係構築を目指す日本にとってもきわめて重要な地域となる。本研究会では、これらの地域に暮らす民の伝統的な生業形態が牧畜であるという点に着目し、牧畜民である彼らのもつ集団観の特徴を分析しながら、その集団観が彼らと国民国家との折衝過程においてどのように変化し、その変化が地域全体にいかなるインパクトを与えているかを、地域研究、歴史学、人類学的な視点から解明していく。
 
■日時:10月10日14:00~19:00
 
■会場:小会議室(文法棟2階 H235号)
 
■プログラム
(1) 14:00~14:30 趣旨説明:シンジルト
 
(2) 14:30~15:20 研究発表1
・発表者:波佐間逸博(長崎大学)
・発表題目: 東アフリカ牧畜社会におけるエスニシティの流動性と生業牧畜の関連
・報告概要: ウガンダ・ケニア・南スーダン国境地帯に居住する東ナイル系牧畜民たちが民族間において略奪、贈与、交換といった行為のどれを選択するのかは、いずれのかたちも可能なであるような状況のなかで、集団間の関係と個人レベルの相互行為の過程が擦り合わされ、基本的な生活実践として決定・実行される。財産と生命の喪失を伴うレイディングが頻繁に発生する隣接集団間関係は、帰属の単位を敵対の単位へと固定化する契機を孕んでいるように見える。確かにカリモジョン―ドドス両社会ではいつの時代も、家族の生命や家畜をレイディングで失うことに人びとは苦しんできた。本発表では、「敵」と「仲間」の間での集合的対決の生起を阻む、東ナイル系牧畜民に特有の「顔の見える個」へのアテンションが、エスニック・アイデンティティの単位を超え、民族的他者まで拡張される牧畜生活の論理と現代的な意義を検討する。
 
(3) 15:30~16:20 研究発表2
・発表者:田村うらら
・発表題目:「遊牧民」意識と実践の絡まりあい:近代国家トルコ南部のユルックと都市民
・報告概要:本発表の目的は、既に近代化の進んだ国家トルコ共和国における、遊牧民意識と実践の絡まり合いを紹介し、学界ではほとんど顧みられなくなった現代の遊牧民研究の可能性を提起することである。中東の中でも最も近代化・世俗化の進んだ国家と言われるトルコ共和国において、ユルックと総称される遊牧民がかつては多数存在していた。現在はほとんど定住したものの、季節的移牧を行う集団が南部に僅かに残る。彼らが現在いかに都市民と関わっているのか、また都市民はいかに彼らを捉えているのかを、発表者は今後の研究で明らかにしたい。発表では、研究対象として想定している遊牧民?都市民関係の2つの結節点、すなわち定期市やバザールという商空間と、「遊牧民文化」を表象し政治的な言説を構築する母体ともなっている「ユルック文化協会」の概略を紹介する。
 
(4) 16:30~17:20 研究発表3
・発表者:地田徹朗
・発表題目: アラル海災害とそこから復興―牧畜の役割を念頭に置いて
・報告概要:報告者はここ数年、カザフスタンの小アラル海地域をフィールドとし、アラル海の縮小と災害化、そしてそこからの復興による社会・経済状況の変化について小アラル海漁業を中心に研究をしてきた。しかし、現地でのフィールド調査によって、小アラル海周辺の旧漁村に住む人々にとって、漁業よりも牧畜が彼らの生計にとって重要であることが分かってきた。本報告では、アラル海災害とそこからの復興について見取り図を示すと共に、そのプロセスの中で牧畜(ラクダと馬の飼養が中心)がどのような役割を担ってきたのかについて考えたい。
 
(5)総合討論
17:30~19:00
 
■発表者紹介
・波佐間逸博(長崎大学、地域研究、人類学)
・田村うらら(金沢大学、経済人類学、物質文化研究)
・地田 徹朗(北海道大学、環境史、中央アジア地域研究、ソ連史)
 
■お問い合わせ
 シンジルト
 熊本大学・文学部・文化人類学
 shinjilt@kumamoto-u.ac.jp(2470)
 
■助成
本研究会は平成28年度熊本大学文学部学術研究推進経費を受けています。
 
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