メンフィスのラフカディオ・ハーン

トム・ハンクス主演の映画『フォレスト・ガンプ』のオープニングで、主人公フォレストは、自分の名前がネイサン・フォレストという歴史上の人物に由来していると語っています。ネイサン・ベッドフォード・フォレストは、南北戦争における南軍の将校で、戦後はKKK団(クー・クラックス・クラン)の創設者となった人物で、アメリカ南部を語る上で不可欠な存在です。アメリカ時代のラフカディオ・ハーンが南部の複雑な歴史をはじめて認識したのは、メンフィスで偶然目にしたネイサン・フォレストの葬送だったのです。
1869年に19歳で渡米したハーンは、オハイオ州シンシナティでの生活を経て、1877年にルイジアナ州ニューオーリンズに移り住みます。当時は国の南北を結ぶ鉄道が未完成であったため、ハーンはいったんテネシー州メンフィスまで列車で移動し、そこから蒸気船でミシシッピ川を南下することになりました。不定期運航の蒸気船を待つためにメンフィスで1週間ほど過ごすことになった彼は、大通りを練り歩く大規模な葬列に遭遇しました。コマーシャル紙への寄稿文によると、南軍の英雄にして悪名高き秘密結社の代表であるフォレストの存在が、軍人や政治家からの尊敬と一般市民からの嫌悪感を持って受け止められていたとハーンは実感します。この葬送は、アメリカ南部での新生活を迎えるハーンが、北部の街とは異質の文化的風土の洗礼を受ける儀式であったのです。
ハーンの著述には「死」にまつわるものが多くありますが、死の儀式を通して異文化をとらえる視点は、彼が作家として名を成す前から持ち合わせていたと言えます。

アメリカ南軍の旗(執筆者撮影)
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