文学部通信11号
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2012年3月24日発行研究推進・地域連携委員会 委員長 小松 裕 2011年度の「21世紀文学部フォーラム」は、12月3日の午後2時から5時まで、文・法学部棟のA1教室で開催されました。今年で8回目を数えます。今年度のテーマは、「東日本大震災以後を考える 歴史から何を学ぶか」でした。3月11日に発生し甚大な被害をもたらした東日本大震災と福島原発事故を受けて、本学部歴史学科に所属する2名の教員が講演を行いました。 第一講演は、日本近世史がご専門の吉村豊雄先生が、「寛政大津波からの復興―熊本藩領有明海沿岸の村々を中心に―」と題して行いました。寛政大津波とは、寛政4年4月1日(太陽暦では1772年5月21日)に発生した雲仙普賢岳の火山活動に伴う強い地震で、標高818㍍余の眉山の東斜面が大崩落し、大量の土砂が有明海に流入した結果発生した大津波のことです。この寛政大津波は、「島原大変、肥後迷惑」といわれたように、午後8時頃に肥後藩領の有明海沿岸村々を襲い、肥後藩だけで死者が4691人を数える甚大な被害をもたらしました。津波の高さは、最大で22.3㍍もあったといわれています。 吉村先生は、熊本藩の援助を受けられなかったために、被害を受けた村々は自力で復興するしかなかったこと、被害を受けて零落した村を抱え込んだ地域では、年貢・諸負担の広域請負化を含めた「地域的公共性」が形成されていくこと、しかしながら地域による復興策には限界があったために、大津波から23年経ってようやく藩が復興策に着手したことを指摘しました。そして、19世紀には、零落所の救済が地域的公共性実現の中心的な課題になっていくと述べました。寛政大津波の碑は、現在も残っているそうです。 第二講演は、日本近代思想史が専門の小松が、「田中正造の文明観―足尾・水俣・福島をつないで考える―」と題して担当しました。小松は、足尾銅山鉱毒問題の概略の説明後に、足尾銅山鉱毒事件とチッソ水俣病事件の共通点が15以上もあり、そのうち福島原発事故との類似性もすでに8つばかり見いだせることを指摘して、同じような加害・被害の構図がくり返されていると述べ、歴史に学ぶことの重要性を強調しました。そして、「自然公共の大益」をベースにした文明への転換を、今から100年前に田中正造が主張していたことを紹介し、経済発展至上主義から脱却する必要性を主張しました。 二つの講演を受けて、フロアーから次々と意見・質問が出され、活発な質疑応答がなされました。参加者は30名余と少なかったのですが、坂元先生の名司会のおかげで、刺激的な講演と質疑ができたことはとても良かったと思います。広報・情報化推進委員会 委員長 伊原 信一 平成23年度オープンキャンパスを8月10日に実施しました。昨年までの反省に立って少し実施手順を改めました。 一つはここ数年来場者数が想定を上回り、模擬授業の時受講生の身動きができないような状況で行われていたことから、受講生の分散を図るため同じ模擬授業を2度行い、更に受業を聞いていない間は研究室訪問ができるよう、研究室訪問の時間帯を長く設定しました。これはある程度成功したようです。 今ひとつは、これまで来場者の接待にかかる費用は各分野で負担していましたが、来場者に配布していたジュース券を廃止し、その予算を来場者への接待費用として用いるようにしました。 また模擬授業は、総合人間学科「心を哲学する」(大辻正晴)・「家族と社会」(徳野貞雄)、歴史学科「大学で学ぶ考古学」(木下尚子)・「人社会の歴史と現代」(足立啓二)、文学科「あなたは既にフランス語を知っている」(ミシェル・サガズ)・「言語の仕組みから見る人間の世界認識」(千田俊太郎)、コミュニケーション情報学科「ちょっと真面目にテレビCMを考える」(江川良裕)・「異文化の相互理解と会話における危機的状況」(アイズマンガー・イアン)でした。担当された先生方には昨年より負担がかかってしまいましたが、少なくとも昨年よりは環境が改善されていたように思いました。 「研究室訪問・相談コーナー」は改修工事が終了していたことからすべて文学部の建物で実施でき、さらに各研究室でも十分な対応をとったため昨年にまして盛況でした。永青文庫研究センター長 甲元 眞之 文学部附属永青文庫研究センターは、発足から3年目を迎えた今年度も公益財団法人(細川護煕理事長)が所有し、熊本大学附属図書館に寄託されている膨大な細川家資史料の目録作成とそのもつ重要性を明らかにして、国民の共有財産とすべく様々な調査研究を進め、地域社会や全国に向けての普及活動に努めている。 これまでに『永青文庫叢書』として第1巻『細川家文書 中世編』、第2巻『絵図・地図・指図編 1』を編集出版したが、どれもすこぶる好評で学界で高い評価をえていて、第1巻は熊本日日新聞社の「熊日出版文化賞」をいただくことができた。また第2巻の研究成果を基に、第28回熊本大学附属図書館貴重資料展『永青文庫資料にみる肥後の街道とその景観』を開催し、北野教授の記念講演とともに好評を博した。第3巻は『近世初期編』として細川忠利関係の未公開文書とその時期の家臣が提出した起請文を目下鋭意編集中で、3月には吉川弘文館から出版されることとなっている。忠利の時代は幕府による幕藩体制の確立期であり、今回提示した史料により元和・寛永期が大きな歴史的転換期であったことを読み取ることができる。 永青文庫研究センターの活動が高い評価を受けることから、様々な社会活動に参画することが多くなってきた。『加藤・細川400年の歴史と文化』(主催熊本県他)のシンポジュームをはじめ、副センター長の稲葉継陽さんが中心となって編んだ『武将幽斎と信長』(熊本日日新聞社刊)も出版された。さらに熊本城や城下町の調査、及び九州各地での遺跡保存や整備に関係して、細川家文書の分析研究を通して得られた情報が極めて多く役立っていることは、今更ながらこれら資史料が国民の共有財産としていかに重要性が高いかを物語っていると言えよう。 「熊本大学文学会」は、教員と学生が参加して、文学部の教育の充実と学術研究の促進をはかり、学生会員が文学部で学ぶ環境をよりよいものにしていくための活動を行う互助組織です。前身の法文学会の時代を含めると、50年以上の歴史があります。本年度に行った事業は次のとおりです。1. 文学部フォーラムなど文学部の事業への支援文学部が行っている研究を地域社会に還元するフォーラムや、教員の研究活動の成果を教員や学生の間で点検するピアレビューのための経費として50万円を補助しました。2. 講演会や学術交流に対する支援日本村落研究学会 第59回大会(10~11月)や日本独文学会西日本支部 第63回大会(12月)など、学生の皆さんも参加できる計8つの催しに対して40万円を補助しました。3. 就職開拓に対する支援「学内就職講座」・「公務員試験対策講座」・「教員採用試験対策講座」の3講座を受講した会員に3,000円のキャッシュバックを行ない、計43人に12万9千円を補助しました。4. 図書整備費の支援教育と研究に必要な中・大型図書を充実させるため、4学科輪番で支援しています。今年度はコミュニケーション情報学科に25万円を補助しました。5. 研修旅行に対する補助それぞれの研究室が行う研修旅行に参加した会員に2,000円を補助しています。本年度は、11月までに、考古学30,000円、西洋史40,000円、日本史52,000円、社会学32,000円を補助しました。6. 学生専用複写機の利用11月までに3,901枚の利用がありました。例年に比べて少ないのは、文学部棟の耐震補強工事による影響で複写機の設置場所が移動したためで、今後はさらなる周知が必要と思われますす。7. 「文学部通信」の発行ご覧になっている「文学部通信」は文学会の経費で作られています。約15万円かかっています。8. 卒業・進級記念品の贈呈卒業する会員と2年次に進級した会員に、記念として図書カード(2,000円分)を贈呈し、そのために60万円の予算を計上しています。2年次進級生にはすでに夏休み前に贈呈しました。 これらの事業は、教員と学生の会員会費から、会員の皆さんに直接・間接に還元されているものです。本会の事業の趣旨をご理解いただき、ご協力くださいますようお願いします。今年度の学生加入状況は、学部生138名(納入率78%)、3年次編入生3名(同100%)です。未加入者におかれましては、ぜひともご加入をお願いします。連絡先は教育支援室(担当:吉田)096-342-2459です。発 行:熊本大学文学部/熊本大学文学会編 集:熊本大学文学部 広報・情報化推進委員会伊原信一、牧野厚史、小畑弘己、中島 隆、渡部雅男ウェブサイト www.let.kumamoto-u.ac.jp文学部通信 第11号2012年3月23日821世紀文学部フォーラムの報告永青文庫研究センター活動報告平成23年度 オープンキャンパス21世紀文学部フォーラムの報告永青文庫研究センター活動報告平成23年度 オープンキャンパス▲『永青文庫叢書』第3巻『細川家文書 近世初期編』の編集作業平成23年度 熊本大学文学会活動報告平成23年度 熊本大学文学会活動報告2011年度文学会常任理事 井原 健

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