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エリザベス・ギャスケル『シルヴィアの恋人たち』(彩流社)1997年12月25日発行 737頁 \6,000

ISBN: 4-88202-523-X

 「真実の愛」とはどういうものか?  様々な価値観が交錯する現代、多くの人が各々の経験に基づいてそれぞれの「愛」観を語る。この物語も、一言で言えば、この問題を提起している。
 物語は、18世紀末のイギリスの漁港モンクスヘイヴンを舞台に、酪農家の娘シルヴィア・ロブスンと、彼女を真摯に愛する洋品店の店員フィリップ・ヘップバーン、そして、彼の恋敵でシルヴィアと婚約する捕鯨船の銛打ちチャーリー・キンレイド、の三人を軸に、フィリップを密かに慕うヘスタ・ロウズを絡めて、展開する。
 当時、対仏戦争中だったイギリスには、兵士不足を補うため、強壮な若者たちを強制的に徴兵する「強制募兵隊」[the press gang]という組織があった。シルヴィアと婚約したばかりのチャーリーが、この「強制募兵隊」に連行される時、その場面の唯一の目撃者だったフィリップは、彼から「今見たことをシルヴィアに話し、必ず戻って来ると伝えてくれ」と、伝言を託される。チャーリーは浮気者。これまでに何人も女を捨てた男。このままではきっとシルヴィアも、そういう不幸な女たちの一人になってしまう……。そう考えたフィリップは、結局、その伝言を伝えないことにする。このフィリップの決断が、その後のシルヴィアの運命を、大きく変えるきっかけとなる。
 果たして、フィリップの選択は正しかったのだろうか。そうまでしてシルヴィアに愛を捧げるフィリップの想いは、彼女に通じるのだろうか。叶わぬ想いに密かに耐えるヘスタには、どんな人生が待ち受けているのだろうか。
 この物語は、「真実の愛」とは何かについて、真剣に模索している人に読んでいただきたい。特に、叶わぬ想いに密かに苦しんでいる人に……。(「訳者あとがき」より抜粋)

エリザベス・ギャスケル(1810−65)

 1810年、ユニテリアン派の元牧師の末娘として、ロンドンに生まれる。1歳で母を亡くしてから、21歳で同派の牧師ウィリアム・ギャスケルと結婚してマンチェスタに移り住むまで、マンチェスタ近郊の田舎町ナッツフォードで母方の伯母に育てられる。父の再婚によって生じた継母や異母弟妹との気まずい関係や、ただ一人の兄や父を相次いで亡くす不幸に苦しむことはあったが、概して幸福な幼少期と青年期であった。
 34歳の時授かった待望の長男を9箇月で病死させたことが、作家エリザベス・ギャスケルを誕生させるきっかけとなる。悲しみを癒すために書いた『メアリ・バートン』が好評を博したのである。以降、チャールズ・ディケンズ、W・M・サッカレー、シャーロット・ブロンテ、ジョージ・エリオットなどの作家たちとの交流を続けながら、長編小説『ルース』『北と南』『シルヴィアの恋人たち』『妻たちと娘たち』をはじめ、『クランフォード』『従妹フィリス』などを含む約40におよぶ中・短編小説、および伝記『シャーロット・ブロンテの生涯』を著した。
 55歳の時、ハムプシャに買った別荘で急逝。〈苦しむ者へのいたわり〉と〈敬虔な信仰心〉が彼女の文学の底流にある。

書評(29 August 1998)
八代高専教授 山田章則

 英国を代表する女流作家エリザベス・ギャスケルの長編ロマン『シルヴィアの恋人たち』を文学部助教授大野先生が本邦初訳したすばらしい本である。
 物語は18世紀末のイギリスの漁港を舞台に、酪農家の娘シルヴィアと彼女を真摯に愛するフィリップ、チャーリーとヘスタを絡めて展開する真実の愛の物語である。
 大野訳の特徴は、原文のヨークシャ方言を熊本弁で訳している点である。そのために、作品が身近に感じられて、長編にもかかわらず一気に楽しく読むことができる。大野訳は、ギャスケル研究者ばかりではなく、一般読者に大いに感銘を与えるでしょう。(
by courtesy of  Professor Yamada「熊本大学英文学会だより」第27号より転載))

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