いちょう並木〜ふられ虫の唄〜

(1987/1/25)

詩・曲  大 野 龍 浩


  街のいちょう並木が色づく頃になると

  何故か昔を思い出してしまう

  高校三年生の時の 秋の体育祭

  あの娘[こ]が来てると 友達から聞いて

  高鳴る胸を抑えて 立ったスタートライン

  何だかおかしいと 自分でも気づいたが

  前後ろ反対にはいてた 白い半ズボン

  遠くからなら分かるまいと 必死で駆け出した

  淡い思い出は皆 時が行けば笑い草になる

  青春の美しさに輝いた一コマよ

  図書館で手渡すはずの 初めてのラヴレターも

  とうとう渡せずにしまった 18歳の秋でした

 

  キャンパスのいちょう並木が色づく頃になるとまた

  何故か昔を思い出してしまう

  大学三回生の時は 秋の学園祭

  美術館でユトリロを見て 植物園で薔薇を見て

  喫茶店に入ったとこまでは つつがなく行ったのだけれど

  ボートを漕ぐ恋人たちが やけに楽しそうだったから

  「乗ってみましょう」と言ったのが そもそもの間違いで

  オールを漕ぐのは難しく ずぶぬれになりました

  苦い思い出も皆 時が行けば笑い草になる

  青春の美しさに輝いた一コマよ

  「あなたはとてもいい人 でもどうか素敵な人を

  見つけて下さいね」と書いた 手紙が残りました

 

  公園のいちょう並木が色づき始める時も

  何故か昔を思い出してしまう

  就職三年目の秋は 二度目のお見合いで

  今度見たのはモディリアニで ユトリロは見たくなかった

  漱石の旧居では少し 学のあるとこをひけらかし

  城跡から見た秋桜[こすもす]は とても綺麗だった

  真面目で明るくて素直で 顔・容姿[かたち]は我慢しとこう

  でも思いやりが嬉しくて 心に決めました

  辛い思い出は皆 時が行けば笑い草になる

  青春の美しさに輝いた一コマよ

  悲しみも苦しみもいつか 乗り越えて生きてきたけど

  今なら言えますどれも皆 僕には必要でした

 


「私が作った歌」

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