Research

 当研究室では、人の認知の仕組みが発達や経験の種類によってどのように変化するか
という発達的変化や可塑性を研究しており、次のようなプロジェクトが走っています。

(1)音声知覚における視聴覚情報の利用 

 対面で人の話し声を聞く時、口などの動きが見え、このような発話に伴う調音器
官の視覚情報を読唇情報ともいいます。一般に、読唇情報は音声の聞き取りに
影響を与えるのですが、子どもは大人より影響を受けにくい等、その程度は母集団
によってさまざまです。そこで私の研究室では、赤ちゃんからお年寄りまでの発達的
変化、および日本人と英語圏の人の差などを検討しています。言語間の比較には、
オーストラリアの Denis Burnham、イギリスの Elena Kushnerenko などの海外の
研究者とも共同研究しています。研究の手法としては、知覚的な判断をボタン押し
などで答えてもらう行動実験のほかに、視線追跡、脳波やfMRIを用いた脳機能計測
など、いろいろ取り入れています。

(2)音楽訓練が第2言語の聞き取りに及ぼす影響 

 音楽家は外国語の習得が非音楽家に比べて得意だといわれることがありますが、
その科学的根拠は十分ではありません。そこで、オランダにいる共同研究者の
貞方マキ子さんと一緒に、日本人とオランダ人が、日本語およびオランダ語の聞き
分けの難しい単語を聞き分けるさい、音楽家と非音楽家でどのように異なるかを
調べています。

(3)人工内耳装用者の音声知覚

 重篤な内耳の障害による難聴者に対して、人工内耳埋め込み手術がおこなわれる
ことが増えてきました。人工内耳は、内耳の先の聴神経を電極で直接刺激して脳に
音の情報を伝える装置です。人工内耳を通した音は、健聴者の耳から入る音よりも
粗雑なので、初めは人の話し声を聞いても何を言っているのか聞き分けが困難な
ことが多いのですが、長期間におよぶ学習によって、次第に聞き分けられるように
なります。私の研究室では、このような長期の学習による変化を、医学部附属病院
耳鼻咽喉科の協力のもとに調べています。

(4)文字認知に及ぼす老視の影響

 40歳を過ぎると、近いところに焦点を合わせるのが困難になってきます。これが
老視(老眼)ですが、私が自分の老視に気づいたのは48歳のときでした。不思議
なことに、読んでいて困難を感じるのは英語の論文を読むときだけで、日本語の
文書を読むのに不自由は感じませんでした。そうした自分の体験をもとに、母語
と非母語の文字では老視による読字困難度が異なるのか、などの問いに答える文
字認知の研究をしています。

(5)身体図式と運動イメージの発達的変化

 外界の視覚対象にすっと手を伸ばせるのは、網膜に映った対象の座標を身体中心
座標に変換する仕組みが脳にそなわっているからだと考えられていますが、その
ような変換を可能にしているのが身体図式だといわれます。私の研究室では、手
のメンタルローテーション課題を用いて身体図式およびその活性化された過程で
ある運動イメージの研究をおこなっています。最近は、自閉症児と典型発達児の
比較、高齢者における加齢変化などを院生と一緒におこなっています。

(6)高齢者における認知機能と運動機能の関係

 高齢者の集団では、若い集団とは比べものにならないほど認知機能に個人差が
大きくなり、ある人は若い時の機能をかなり維持しているのに、一方では認知症に
なる人もいます。このような認知機能の個人差は、運動機能と関連しているかも
しれません。また、長期的に運動訓練をすることで、高齢者の認知機能に改善が
みられるという報告もあります。私の研究室では、運動機能と関係の深い認知機
能にはどのようなタイプのものがあるかを明らかにしようとしています。

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